興味のあることなど
研究の興味
大学3年生の臨海実習。
小さな潮だまりを見て、なぜこんなにもたくさんの生物がこの小さな空間で一緒に生活出来るのだろうか?という疑問を持ちました。
そしてその疑問に対する答えを探ることは、今でも私が研究を進める上でのモチベーションの一つです。
多種の生物の共存がなぜ可能なのか、それを説明する上で、いくつかのキーワードがあります。
ある種Aがある種Bに直接与える影響は“直接効果”と呼ばれ、ここには、競争や捕食なども含まれます。
一方、ある種Aは種Cと直接関わらずとも間接的に影響を与える場合があります。それが“間接効果”です。
例えば捕食者であるカニがそのエサとなる貝を食べてしまうことで、その貝が摂餌していた海藻の量を増やす、といった現象は間接効果によって説明できます。
学生時代、私はこの目には見えないけれど、多種生物の共存を可能にしている“間接効果”に注目し、その大きさが状況に依存してどのように時空間変動していくのかを調べてきました。
私のフィールドは岩礁潮間帯。群集生態学の分野を引っ張ってきたサイトの一つです。
そこにはたくさんの魚類やカニやエビなどの甲殻類、貝類、海藻などが生息し、海水の中で生活する彼らを見ているととても気持ちよさそうです。
しかしこれら生物の中でももちろん、競争や捕食・被食が起こっています。彼らは生存するために巧みにその行動や形態を変化させます。
なかでも今注目しているのが、貝類が普遍的に分泌している”粘液”です。
貝類は移動するために必ず粘液を分泌する必要があり、そのコストは他の移動手段に比べ遥かに高いと言われています。
ただ、ひとたび岩上に残った粘液跡には、粘液を分泌した貝の情報がふんだんに含まれています。
その情報を彼らはどのように使っているのでしょうか。
すでに貝類を用いた研究により、粘液がエサ獲得や乾燥・紫外線対策、捕食者・寄生虫・細菌防御効果、共生関係維持への効果が明らかになっています。現在私は、これまで評価してきた岩礁潮間帯の群集形成過程が、その主要構成種である貝類による粘液塗布を介して駆動されているのではないかというアイディアの元、研究を進めています。
粘液は陸域、水域を含む多くの分類群に属する生物が、その生命を維持するために必要不可欠だと言われています。
加えてそれらの生態系は、生物や粘液を含む物質の移動を介して相互に影響を及ぼし合っていることから、群集を理解する上で粘液は欠くことの出来ないキーワードになること間違いなしだと考えています。
最近の主なテーマ
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集合するタマキビとその粘液が駆動する岩礁潮間帯群集
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野外岩礁域に塗布されている粘液量推定
○共同研究者:
弘前大学 理工学部 知能機械工学科 岩谷靖准教授-移動距離や粘液塗布量を推定するためのシステムを構築していただいております
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捕食-被食関係にある貝類の粘液利用(捕食者:肉食性巻貝イボニシ・被食者:藻食性笠貝キクノハナガイ)
○共同研究者:
弘前大学 理工学部 知能機械工学科 岩谷靖准教授-トラッキングシステムの構築をしていただいています
北里大学 理学部 化学科 反応機構学 丑田公規教授-粘液成分分析におけるご助言をいただいております
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農業をするカサガイ(動物:藻食性笠貝キクノハナガイ・笠貝のエサ:緑藻&褐藻)
○共同研究者:
神戸大学 理学部 生物学専攻 川井浩史教授-粘液が及ぼす海藻への影響を解明する実験をともに行っていただいております
以上、粘液に関する研究はすべて,北海道大学野田隆史教授,京都大学生態学研究センターの佐藤拓哉准教授と行っています。
過去の主なテーマ
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笠貝キクノハナガイの卵の孵化タイミングに卵捕食者と成体捕食者が与える影響 (Wada et al. under review)
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笠貝キクノハナガイの発生様式 (Wada and Yusa 2021)
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生態系構成種の季節性で変動する間接効果 (Wada et al. 2017)
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被食者密度の違いが捕食者が駆動する間接効果の大きさに与える影響 (Wada et al. 2015)
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捕食が被食者を介し間接的に海藻相に与える影響 (Wada et al. 2013)
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深海ルリエボシガイに関する研究 (Wada et al. 2013)
所属学会(2020.7月現在)
個体群生態学会、日本生態学会、The Ecological Society of America
SNS
やっていません。とても苦手です。
やっている人がとても立派に見えるし、自分が背伸びしちゃうからです。
でもおすすめな利用方法があれば教えてください!
子育て世代の私にできること
子育てと研究の両立は、時間と体力と精神力との闘い。
自分だけ足踏みしてるような、ずっと低空飛行しているような、そんな気持ちになるときもあれば、研究モードに入っている時には、かわいい我が子が怪獣に見え、敵に見え、旦那さんが悪魔に見えます。
全然研究できない週もあります。野外調査に思うようにいけないことも多いです。
でも、やっぱりどんな形でも研究をしている時間が好きで,研究をしている自分が好きだなと思います。
私にとって子育てをしてきた、している研究者の方々の存在と言葉はとても心強いです。
私もそんな存在になりたいし,心から応援しています。
2021年の4月から、”おうちでほいくえん”という雑誌に毎月、子育てをするお父さん、お母さんが読めるような、生き物のお話を書いています。子供といるからこそ生まれる生物に関する疑問を分かりやすく解説することを目標に執筆しています。
自分だからできる研究スタイルでしがみつきます!