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これまでの研究内容

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  • 捕食が被食者を介し間接的に海藻相に与える影響 (Wada et al. 2013. Ecology)

    本研究では、和歌山県白浜町にある、京都大学瀬戸臨海実験所近くの岩礁潮間帯に点在する大型の転石、数十個を実験区とし、その場に存在する生態系を用いて野外実験を行いました。

    捕食者である肉食性巻貝のイボニシReishia clavigeraが、草食性のカサガイであるキクノハナガイSiphonaria siriusを介して、2種類の藻類(緑藻Ulva sp.・褐藻Ralfsia sp.)に与える間接効果について調べています。キクノハナガイは家痕を持ち、その周りには褐藻が生えていることが多いのですが、捕食者が駆動する間接効果により、この褐藻は緑藻に覆いつくいされ、最終的には死滅してしまうことが分かりました。

    本研究は、間接効果によって藻類相が変化することを野外で初めて明らかにしたものであると言えます。

[出版までのエピソード]

卒業研究のテーマを探していた私。臨海実習で岩礁潮間帯という場所とそこに生息する生物どうしの関係に興味を持っていたこと、地頭の悪さから、他の人に勝てるのは努力することしかないことを当時の指導教員であった遊佐陽一教授に相談しました。

その結果、労力がかかるという理由であまりやられてこなかったことをしてみよう!ということで本研究を始めました。真夏の炎天下、岩礁域で毎日7時間以上生物を観察しデータを取る日々でしたが、生物、特に貝の行動を見るのが面白くて、すっかり研究の世界にはまってしまいました。

ちなみに、最初に投稿してから出版にこぎつけるまでには1年以上かかっています。これは、当時のeditorが、再実験する時間をくれたからです。教育目的もかねて査読もしてくれ、たくさんのコメントも下さいました。

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  • 被食者密度の違いが捕食者が駆動する間接効果の大きさに与える影響 (Wada et al. 2015. JEMBE)

    間接効果は生態系の構造を明らかにする上で重要な役割を担っていることから、これまで、陸・水両域において多くの研究がなされてきました。捕食者が被食者を通して植物などの資源に及ぼす間接効果には、密度媒介型と形質媒介型の2種類あるとされています。
    先行研究では、密度媒介型と形質媒介型の間接効果の大きさを決める要因として、捕食者の特性 (例えば捕食方法) や資源の特性 (例えば資源の質) が注目されてきました。しかし、これまでに、間接効果を媒介する被食者の特性について調べた研究はほとんど存在しません。

    そのため、本研究では、岩礁潮間帯に存在する、捕食者 イボニシ-被食者 キクノハナガイ-藻類相(緑藻・褐藻)」という系を用い、被食者の密度の違いが、密度媒介型と形質媒介型間接効果の大きさに与える影響を評価する野外実験を行いました。
    実験の結果、密度の低い区では、捕食者存在下で被食者キクノハナガイの摂餌率が低下し、密度媒介と形質媒介型の両間接効果によって藍藻が緑藻に置き換わることが分かりました。一方で、密度が高い区では、両間接効果とも緑藻の被度に影響を及ぼさないことが分かりました。

    以上の結果から、自然状況下において、密度媒介型と形質媒介型間接効果は共に、資源の群集構造 (藻類相) に重要な影響を与えること、そして密度媒介型と形質媒介型間接効果の大きさは、捕食者や資源の特性同様、密度という被食者の特性によって影響を受けることが明らかになりました。

[出版までのエピソード]

修士研究として、次のステップとして何をしたいか、すべきなのか指導教員の遊佐さんと話していました。
私のやりたいことは別にあったのですが、これは遊佐さんが、結果が出れば間違いなく論文として世に出せるからと押してくれてやった研究です。おかげで、密度という概念が個体群・群集生態学研究においてこれまでどれほど重要視され、どんな研究がされてきたのかを勉強するに至りました。”何をしたいか”というアイディアはあったものの、勉強不足から”何をすべきなのか”を適切に判断できていなかった当時、指導教員の存在は大きかったです。

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  • 生態系構成種の季節性で変動する間接効果 (Wada et al. 2017. Ecology)

    これまで間接効果の大きさは短期的に評価されたものが多く、長期的な変動や、そこに生態系構成種の季節性がどのように影響するかについてはほとんど明らかにされてきませんでした。

    本研究では、野外岩礁域で、長期的に (約1年) 間接効果の大きさを評価しました。本実験を開始した夏から翌年の春までの間、捕食者巻貝と被食者笠貝には明確な季節性が見られました。
    その結果、捕食圧の強い夏から秋にかけ、捕食者巻貝は被食者笠貝を介し、密度・形質の両処理によって藻類相を褐藻から緑藻に変化させることが分かりました。また、密度媒介型よりも形質媒介型間接効果の方が3カ月近く長続きしました。しかし、いずれの間接効果も、捕食圧の低下と被食者の新加入個体の定着が起こる冬には弱まり、春になると、間接効果の種類や有無に関わらず、同じような藻類の群集構造が形成されました。

    藻類相の変化をもたらした間接効果の影響が、一年のうちに消失し、群集構造のリセットが生じるプロセスと、そこに影響する生態系構成種の季節性について考察することで、長期的な間接効果研究が、群集構造や動態の理解に貢献することを示しました。

[出版までのエピソード]

博士課程に進んだ私がしたかったのは、今まで見てきた現象をもっと長い時間かけて評価することでした。
岩をなめるように見てきた自分は、生物たちがもつ季節性が、間接効果の大きさに間違いなく大きな影響を与えることを確信していました。このころは隔週で白浜と奈良にある大学を行ったり来たり。移動手段である高速バスの運転手さんの真似や運転の癖まで披露できるようになりました。(でも分かって笑ってくれるのは同じ研究室に2人くらいしかいませんでした。)
岩礁潮間帯の季節的な移り変わりは思っていた以上にダイナミックでした。それが結果に反映され、間接効果が生じ、その効果がリセットされる過程を知ることが出来ました。夏は海水浴に来たヤンキーに、冬は真夜中の調査になるので、野犬やおばけへの恐怖と闘いながら調査を進めました。今は学生時代ほどの時間を研究に注ぎ込めていなくて、だから余計に、この経験は宝物です。

  • 同属よりも極端に短いキクノハナガイの発生 (Wada and Yusa 2021. Molluscan Research)

    キクノハナガイSiphonaria siriusは雌雄同体のカサガイです。
    小潮の朝に交尾をすると翌日朝の低潮時に産卵します。そこからわずか5日程度で胚が孵化してしまいます。
    本論文では、キクノハナガイの発生様式と各発生段階の期間を記述しました。
    暑い夏真っ盛りに産卵する彼ら。この高い温度が早い発生を可能にしていると考えられます。

[出版までのエピソード]

これまで野外調査をする中で、笠貝の繁殖特性に捕食者が与える影響に興味が出てきたので、ドクターの2年目、3年目と取り組んだ研究。
​論文がありえない長さになってしまったので、発生段階を追った本論文は分けて別の雑誌に投稿することにしました。

投稿作業に入ったのは2人目がお腹にいる頃。2人目が出てきてすぐに、原稿が返ってきてしまいました。

Oh no!だったのですが、期限は迫ってくるし、結局頭を論文に支配されちゃうので、育休中に作業をしました。
でも、まとまった時間が取れなくて、子供が泣いていてもここまでは書きたい!みたいなこともあって。

結局授乳をしながら論文を書いていました。
これが良いことかと言われるとそんなことなくて、育休中に仕事のことを考えなきゃいけないって心から不健全だと思います。
私の論文投稿スケジュールが悪かっただけ。

けど研究者って難しいですよね。産休・育休取っていても、完全に研究のこと忘れられないし、
同じような状況で仕事している方とかいると自分が怠けているような気持になります。
育児ほどしんどい、めちゃくちゃ大変な仕事はない!って思いますけど、
そんな気持ちになっちゃうなんて良くないですよね~
 

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